2008年08月18日
「容疑者Xの献身」 東野圭吾

「容疑者Xの献身」 東野圭吾
文春文庫 ★★★★★
弁当屋で働く花岡靖子は、しつこく付き纏う、前夫・富樫慎二をアパートの一室で殺害してしまう。それに気づいた、靖子に思いを寄せる隣人の数学教師、石神は助けを申し出る…という話。
「探偵ガリレオ」シリーズの長編ミステリー。
東野圭吾の小説を読むのは、「探偵ガリレオ」が文庫化されて以来だから、かなり久しぶりだ。(「予知夢」は読んでいない)
この小説はいわゆる倒叙もののミステリーだ。天才数学教師が花岡親子を守るために、様々な仕掛けを張り巡らす。それに対し、警察官の友人、草薙から相談を持ちかけられた物理学者・湯川が事件に関わってくる…。
はじめに予想された、石神と湯川の頭脳戦、とは少し違っていた。湯川は石神の大学時代の同級生であり、事件に関与する動機も、警察のそれとは目的が異なっている。
石神がどうやって、花岡親子を守ろうとするのか、それは読者には敢えて伏せられる。一体、どうやって警察の目をそらすのか、天才数学教師なのだから、きっと常人には考えもつかないやり方でトリックを仕掛けるに違いない…と思った。
以下、ネタばれ気味の感想です。
だが、意外にも、トリックはいたってシンプルで、いかにも本格ミステリーで使われそうな類のトリックだった。
しかし、注意を引くのは、そういういかにも本格ミステリーで使われそうなトリックを、血の通った人間が使うとき、いかに大きな犠牲を払わなければならないのか、ということが描かれていることだ。そこが、本格ミステリーに対する批評が含まれていて、感心した。かつてパロディ小説「名探偵の掟」で行った試みを、別な形で再現しているように思えた。
また、テーマになっている「数学」との絡みも素晴らしい。
特に、自分で考えて答えを出すのと、他人から聞いた答えをがどうか確かめるのはどちらが簡単か、というP≠NP問題(初めて聞いた)を警察の捜査方針の盲点にあてはめるようなやり方に唸った。数学の理論の応用してやってしまうところに驚いた。
そして、純愛、という要素にも心を動かされた。
いくらなんでもそこまで…とは思う。決して共感はできない。しかし、共感はできないけど、にもかかわらず、そこまで、愛する人のために、身を捧げるという行為は美しいと思った。熟慮に熟慮を重ね、愛する人が幸せであるように、献身する、その不器用でありながらも、行き届いた配慮に感動してしまった。
僕はこういう話に弱い。
ところで、この小説、福山雅治主演のドラマ「ガリレオ」の映画版として公開されるらしい。
湯川はもちろん福山雅治。
そして、石神は…堤真一…。
違う、違うよ!
石神はそんなに格好よくないんだ。
モテそうにない石神だからこそ、感動するんだよ。
堤真一は確かに「冴えない男」を演じられるだろう。でも、それでも堤真一は格好良すぎるよ…。
まぁ、映画と原作は別物だとは、わかっちゃいるけどね。
やはり「映画版」の福山雅治のライバルにはそれに相応しい男前が必要だったということなんだろうか…。